食材を買いに近所のショッピングモールに来たのだが、食材売り場に直行せず、同じショッピングモール内にある本屋に立ち寄ることにした。話題の書籍を確かめるためだ。ところが本屋に向かう途上で、ショッピングモールの通路でポケットティッシュを配っている若い男性がいた。多分サンプリングだろう。無視したら罪悪感を持つだろうか、という思いが頭をよぎり、自然に差し出されたポケットティッシュを素直に受け取ってしまった。
そして、スマホについて聞きたいことがあると言われ、近くにあるショップまで案内された。
テーブルの前にある椅子に座らされ、まず現在のスマホの契約内容とともに保有するポイントを確認された。知らぬ間に驚くほどたくさんのポイントが貯まっていたようで、「早くポイント使ってくださいね、おとうさん」と言われた。
続いて、スマホについての希望の有無を聞かれたり、契約内容の変更についてのいくつかの選択肢を提示された。「とりあえず、お見積もりをしてもいいですか、おにいさん」と言われた。
呼ばれ方が、おとうさんからおにいさんに変わった。
見積もりの内容を聞き終え、悪い話ではなかったのだが、迷ったあと、「いい話でありがたいのですが、考えさせてください。検討します。」と即答を避け、席を立った。ふと、もらったポケットティッシュを見ると、商売気のない透明の袋に真っ白なティッシュペーパーだけが詰まっていた。自宅の散らかった机の上に、いっぱい積み重なった他の書類の奥深くに沈み、見積書の存在すら失念した。

広告チラシは入っていなかった。
その後、本屋をひと巡りし、本来の目的だった食材を買って、自宅に戻った。
話題の書籍が、前回本屋に行ったときからちょこっと変わったみたいだ。本屋の目立つ位置に置かれた書籍が、異なるラインナップになっていた。
コメント