そろそろミツバチが姿を見せる季節、かぜが吹く。
足場が組み立てられた工事中のビルから、いかつい衝撃音が響く。
いつも散歩中に立ち寄る書店で、キュッキュと音がした。靴の裏のゴムと濡れた床のタイルが擦られたのだろう。腹が減ってきたので、昼食を何にしようかとプラプラ歩いていると、真横に聳え立つ柱の死角から足元に、2歳くらいの少女がバランスを崩して勢いよく転倒してきた。危うく頭をキックしてしまうところだった。間一髪、その子の母親らしい美しい女性が、サッと素早く抱き上げた。血の気を失い青い顔をして、横で見ていた毛深い男が、ニコッとして親指で安堵のサイン。
やたらと靴を強調してくる世界だ!
ふと、ストレス発散になるかと考えて、小雨が降る中、走る。息切れした。電車に乗ると、右隣の一人と右斜め前の二人が全く同じギンギラギンのラメを貼った滅多に見ない珍しい靴を履いていた。そんな偶然あるのか、ミラクルかテレパシーだろうか。ホラーか。いや、自己が無理矢理すごいファンタジーを好きなようにつくっただけか。氷が溶ける音がしたのは空耳か。
カラスが鳴いた。いい靴で世界中を歩きたい。
別日、地下街をトロトロ歩いていると、タイルの床に誰かのハンカチが落ちていた。素通りか拾うか迷った。


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