トーマス・セドラチェク「善と悪の経済学」を読みました。

経済学の物語ー詩から学問へ

現実は物語から紡ぎ出されるのであって、物質からではない。ーズデニェク・ノイバウエル

いかに古くばかげたものであっても、われわれの知識を高められない思想は存在しない。進歩を妨げない唯一の原理は、”anything goes”(なんでもあり)である。ーポール・ファイヤアーベント

経済学は、意図せず、自然発生的に、無秩序・無計画に生まれた。

こうした「弱い関係」は、社会にとっても企業にとっても有用であり、必要でもある。

「エンキドゥは・・・ギルガメシュのもう一つの自我であり、彼の魂の暗い銃声を表し、休まらない心を補う存在である。ギルガメシュはエンキドゥとの遭遇によって、憎むべき独裁者から都市の守護神に変貌を遂げた。・・・・・・二人の巨人は友情を通じて人間らしさを身につけ、半神だった二人はわれわれと似た人間になった。」

叙事詩の最後は、陰鬱な循環史観で締めくくられる。何一つ変わらず、何の進歩もなく、ささやかな冒険の後はすべてがもとの状態に戻ってしまう。

たったいま告白しよう。ユダヤ教は資本主義のような指導原理だったと私は考えている。どちらにも同じ精神が見受けられる。ーヴェルナー・ゾンバルト

現代はお金と借金の時代であり、後世にはたぶん「債務時代」として記憶されることになりそうだ。

プラトンは、基本的にはピタゴラス教団のアイデアをいっそう洗練させたと言える。彼らは、世界は巨大な幾何学装置によって基本単位から構築された合理的な存在だと考えていた。この基本単位とは、点あるいは『一』である

現代科学は、パルメニデスの世界観とヘラクレイトスの世界観の間でつねに揺れている。前者では現実を再構築する手段としてモデルがつくられ、あるいは現実は再構築可能であると認識され、すくなくともある意味でその恒常性が認識されている。対照的に後者では、合理的なモデルは「真実でなく現実でもない」単なる補助手段とみなされ、絶えず変化する現実世界においては将来予測にいくらか役立つ程度と考えられている。

古代の政治経済学の頂点に君臨するのは、アテナイ市民だった経済学者クセノポンである(彼は、哲学者としては凡庸だった)。

プラトンとは異なり、アリストテレスは現世のことに力を注いだ。

蜂の悪徳

全体のうち最悪のものでさえ、公益のためにお役に立つ。ーバーナード・マンデヴィル

『蜂の寓話』は、繁栄する蜂社会の描写から始まる。

これは、道徳哲学の教授としては驚くべき手口と言わねばならない。スミスがしかるべき説明もなく悪徳を徳としたこと、マンデヴィルを認める発言を一言も発しようとしなかったことは、いささか奇妙に感じられる。

たとえばヒュームは理性を脇役に降格させ、感覚と感情を主役に据えた。一方スミスは、社会的な行動の原理は共感にあるとし、共感は社会を結びつける役割を果たすと述べた。ヒュームもスミスも、人間は生まれついて社会的な動物であり、共同体の最も遠いメンバーともつながりを感じるものだと考えた。

私にとって彼の経済学への最大の貢献は、倫理に関することだ。善悪をめぐる議論を始めたのはスミスではないが、スミスによって深まったと言える。

強欲の必要性ー欲望の歴史

苦しみがなければ、人間性のごく些細な部分さえ変わらない。ーC・G・ユング

心理学者のカール・グスタフ・ユングは、人間の思考も世界観も元型の中で変わるだけで、その元型は数千年にわたってずっと同じままだと考えた。

ユングは「深い意味が立ち現れるのは、予想されていなかった恐るべき混沌の中からである」と書いている。ユングにとって、しばしば破壊点こそが理論の出発点だった。

パンドラは箱(一説によれば壺)を持たされたが、その中にはそれまで地上に存在していなかったありとあらゆる苦しみと悪が閉じ込められていた。好奇心に駆られて彼女が箱を開けると、さまざまな悪や病気が、さらに本性の最大の関心事である労働の呪いが飛び出してくる。それまで楽しかった労働は、辛く疲れるものとなった。パンドラは慌てて蓋を閉めたが、手遅れだった。

イヴは、アダムにはまったく効き目のなかった悪賢い蛇の誘惑に負け、おそらくは好奇心にも負けて、禁断の果実を食べてしまう。その結果、楽園から追放されたうえ、地上には悪がはびこるようになった。だがアダムは、労働の呪いというたった一つの呪いを誘発しただけである。

人間の位置付けは、二つの間のどこかにある。すべてを説明できる合理的なホモ・エコノミクスに成り切ることもできないし、アニマルスピリットに全面的に身をまかせることもできない。

メタ数学、ここに龍あり

いまからほぼ100年前に、数理経済学の創始者の一人であるアルフレッド・マーシャルは、数学の役割を強調した。ただしあくまでも言語として出会って、「探究の原動力」としてではない。

(五)数式を燃やす。

分別のある人は、自分を世界に適応させる。

分別のない人は、なんとかして世界を自分に適応させようとする。

よって、世の進歩はすべて分別のない人による。ージョージ・バーナード・ショー

どんなものにもひびがはいっている。だから光が差し込むのだ。ーレナード・コーエン

観察結果が既存のフレームワークに当てはまらないとか、既存の理論の期待値から乖離するといった程度のマイナーなエラーが、ときに理論の瑕疵を暴き出し、ついには完全に覆すことがある。まさに映画『マトリックス』のグリッチ(データ破壊)のように、基本的な世界観をぶち壊す。

債務危機は、ただの経済危機とは性質が異なる。

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